「これじゃあ なんにも読めないよ」 ボクが 言った 「大切なことが 書いてあったはずなんだ」 「ごめんなさい」 肩をすくめるのは ワタシ 「知らなかったの ほんとうよ」 いかにもすまなそうに つぶては 紙で出来ている 丸めて 丸めて 小さな指で ちいさく丸めて 爪の先で まとめられ くちの中で さらに 噛んで 噛んで くちゃくちゃに 噛みつぶされた 紙のつぶて それは たぶん 大切なことが 書いてあったはずなんだ ボクの大切なことが 書いてあったはずなんだ なじるボクを みつめるワタシ ワタシが噛んだ くちびるは 気持ちとおなじに ささくれる 「そんなに大切なことなら 覚えていなさいよ」 ワタシは にわかに 声を荒らげた 「紙になんか 書かなくったって 覚えていなさいよ」 弾丸のように 刺さる ことば ボクは うつむいてしまった 「ごめんね ごめん だから … 怒らないで」 ボクが いくら謝ったって ワタシのことばは 止まらない 「もう あんたとは 遊んでやらない」 ワタシは 口を尖らせて 勢いよく 身をひるがえし 橋の向こうへ 駆けて 駆けて そのうち 見えなくなってしまった 残されたのは ボクの体 たぶん大切だったものを 失った ボクの ぬけがら つぶて つぶて 大切なことは つぶてと共に きっと すっかり溶けてしまったんだ つぶて つぶて つぶれて つぶて 大切に 隠していたのだろうに きっと 溶けて消えてしまったんだ あぁ どうか どうか気付いて ワタシはボク ボクはワタシ どちらも同じ つぶての持ち主 つぶての話は これでおしまい |