雨降りの夜更け バス停の前 時刻表の末尾の 数字を指でなぞりながら わたしは先へゆく術を失って そこに呆然と立ちつくしていた そんな時に決まって聞こえる あなたの声は ナマリがきつくて まるで怒っている風で 大丈夫だよ だいじょうぶ。 あの日 あなたは床(とこ)にいて むくんだまぶたを重く上げ 細い瞳を光らせて かすれた声でこう言った 「大丈夫だよ だいじょうぶ。 おまえをいつも見ているからね。」 気丈なあなたの最後のことば 自分の身さえもままならぬのに 今夜もまた大丈夫だと 根拠のない虚勢で叱咤(しった)する 我がみずさきに ひかりを灯す 行きなさい 生きなさい。 |