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伊藤信吉


上州望郷
ふるさとは
風に吹かるる
わらべ唄
今朝の秋
ふるさとに似たる
風ぞ吹く

幼年の日の空は風は季節の色で
吹いていた。そして私はこの土地で
育ち風に羽ばたく思いを知り、
風に抗う歌を知った。
     1957年春 
広瀬川沿いにある詩碑
1975年5月
前橋青年会議所創立25周年を記念して設置
 
                           旅
風が草にそよいで消える
波が渚にさわいで崩れる

私は手を振る
いたるところの旅で別れの手を振る

−ふたたびここの土地と海をたずねることがあるか
−ふたたびここの言葉と唄を聴くことがあるか
前後に揺れる時間の起き伏し
行手にくねり後ろにゆがむおぼろな道

見えぬ何ものかが別れを言う
見えぬ何ものかが別れを告げる

訣別の思いで綴る
私の旅、私の歌、私の旅の日の暮れ・・・。
広瀬川沿いにある詩碑(上記裏面)
1975年5月
前橋青年会議所創立25周年を記念して設置
(詩集 「上州」より)  

伊藤信吉(1906−2002)は詩人・文芸評論家。群馬郡元総社村(現 前橋市元総社町)に農家の長男として生まれる。萩原朔太郎、室生犀星に師事した。18歳から県庁に5年間勤めた。20歳のころ婚約者が経済的理由で上京を余儀なくされた。この時期に文学への情熱押さえがたく1928年に上京して「ナップ」に加盟、プロレタリア文学運動に加わり、詩文学を中心とした著作をつぎつぎに発表した。またすべての『萩原朔太郎全集』、『室生犀星全集』の編集にあたるなど、多くの編集・研究論考がある。1973年『ユートピア紀行』で第2回平林たい子賞、1976年『萩原朔太郎1・2』で第28回読売文学賞、1977年『天下末年』で第9回多喜二・百合子賞、1979年詩集『望郷蠻歌・風や天』で翌年第30回芸術選奨文部大臣賞を受賞した。「風色の望郷歌」「上州の風の下」など、養蚕に支えられてきた生活に基づいたふるさとを記した貴重な内容である。

           
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